私たちの愛する’京都’に捧げるビール

私たちが最も頻繁に聞かれる質問の 1 つは、「なぜ京都で醸造所を立ち上げようと思ったのか」ということです。今では京都醸造で働く人の中にもこの街の出身者がいますが、最初はそうではありませんでした。ご存じの通り、京都醸造の創業者は同じ国の出身ですらありませんでした。

 

では、なぜ京都なのでしょうか?

 

クラフトビール醸造所を京都で始めることに意味があると感じた理由は一つではありません。私たちが事業を始めた当時、京都における醸造所はそれほど多くはありませんでしたし、特定のビール醸造所が圧倒的な力をもって存在するような状況でもありませんでした。

 

また、時々「やっぱり京都は水がいいからですか?」と聞かれることがあります。よく知られていることですが、伏見地域に多くの酒蔵ができた背景には、このエリアの豊かな水源にあるようです。ビールの味にももちろん影響することでしょう。

 

ただ正直に言うと、私たちがこの街で醸造所を立ち上げたいと思った大きな理由は、紛れもなく純粋にこの街で醸造所を立ち上げること以外考えられなかったということ。ベンは20年前に交換留学生として、ポールは気に入って繰り返し滞在し、そしてクリスは醸造所を立ち上げる話が進み始めた頃すでに、京都で仕事をし、住み始めて何年も経っていました。何かの縁が働き、この街に吸い寄せられた私たち3人が、意を決して挑戦する場所はやっぱり京都だという気持ちでつながっていたように思います。

 

ビジネスの観点から、それが本当に理にかなっているかどうかを調査しなかったわけではありません。特に立ち上げにかかる莫大な費用へのサポート、私たちを信頼してくれる多くの友人や家族が背中を押すように応援してくれていたことを考えると、もしその決断に至らなかったとしたら、なんて恩知らずで無責任なんだと後で振り返っていたと思います。

 

今になって思えば、京都が当然の選択だったと言うのは簡単ですが、創業当初は、そうではないと考える人もまわりにたくさんいました。特に、製造免許を発行する税務署は、私たちが市内で4つめのビール醸造所であることから、私たちに対して懐疑的で製造許可を下ろすことも渋っていました。当時、この街のクラフトビールもまだ黎明期ということもあり、複数のビール醸造所を維持できるほどの需要は見込めませんでした。こうしたことから、私たちはビールの製造免許を取得するために必要な量を製造・販売する能力があることを証明できるようになるまで、発泡酒に限定された免許からスタートしました。

 

そして、それは納得しなければいけない事実だったかもしれません。私たちが事業を始めたとき、樽ビール(発泡酒)のみを製造し、それを提供するために必要な冷蔵サーバー設備を備えているバーやレストランは市内を見渡しても両手で足りるほどの数だけでした。京都は美食の街として知られていますが、どちらかというと伝統的な日本料理、割烹のイメージが強く、そこからつながるのはお茶や日本酒というのが一般的な理解でしょう。そんな街の文化・カラーから見ると、まだ若くて大胆で生意気な新参者であるクラフトビールが大きな顔をして上がり込んでくるのにはふさわしい場所ではないとも思われていたかもしれません。

 

しかし、本を背表紙だけで判断すべきではないことと同様に、私たちが京都を訪れて知れば知るほど、この街の持つ多様性や許容力にどんどん魅了されていきました。個性を活かした数々のワインバー、純喫茶からサードウェーブまで幅広く豊かなコーヒー文化、そして最高のカクテルバーがこの街に存在し、海外の文化に影響をうけた創作とフュージョン料理の街でもあります。何代にも渡って受け継がれてきた伝統的な街の一面と同時に存在する、受け入れて変化しつづける京都に自分たちの居場所を見つけ始めました。

 

日本人の大多数、そして海外から日本を訪れる旅行者のほとんどは京都を訪れたことがあるでしょう。毎年約9000万の人が訪れる世界的にみても非常に人気のある観光地です。しかし、住む場所としてはどうなんでしょうか?

 

 

人々は歴史を求めて京都を訪れますが、それだけが本当の滞在の理由ではないでしょう。美食の街としてはもちろん、伝統的な建造物が多く残り、その美しさを維持することに力を入れている全国的にみても珍しい街です。
 
そして、街をぐるっと囲む山々や街の中を流れる川など、風光明媚な景色が楽しめる街でもあります。そして、この街には外からやってきて新たに生活や仕事を営み始めた人々が多くいますが、私たちが今ここにいることができるのは彼らのおかげでもあるでしょう。多くの人に京都について尋ねると、偏ったイメージや先入観をもっていることに気づきます。保守的?冷たい?? 本音は口にしないような二面性がある???

 

この街を観光で訪れる場合、その短いの滞在時間ではほとんど知ることができないのは、京都の人々が長期的な関係を築き、お互いをサポートしあうことに重きを置く価値観が挙げられるでしょう。礼儀正しくも一定の距離感のある最初の対応は、多くの場合、そうした信頼しあう人間関係を重視し、誰とでも軽々しく関係を築かないというところからきているのかもしれません。他の地域のコミュニティでは、まずオープンでフレンドリーであることが良しとされているかもしれませんが、その反面、関係は軽く変化しやすいこともあります。京都では、時に人間関係が頑固で難しいとみられる向きがあるかもしれませんが、それは人々が自身のコミュニティの人々を積極的に助け、支援するために全力を尽くすことを第一に考えているからかもしれません。

 

外から来た私たちは、醸造所を立ち上げた当初、この街のそうした風習に一種の懸念を抱いており、地域に住む人々にどうしたら理解してもらえるかを考え、醸造所を設立する地元のコミュニティと関わることに最善を尽くしました。頭の中では難しい質問が多く寄せられ、得体の知れない集団がコミュニティに飛びこんできたことで何かしら苦言を呈されることまで予想していましたが、驚いたことにむしろ多くの地域の人に歓迎され、励まされることすら多かった印象です。実際に事業を始めると、京都の方はもちろん、地元南区に住む人がふらっとタップルームを訪れてくれる事がどんどん増えていきました。

 

また、少しずつではあるけれど京都市内の百貨店、酒屋、スーパーマーケット、あるいはいくつかの素晴らしいビアバーで、京都醸造のビールが豊富なセレクションとともに提供されているのを見るたびに、私たちはいつも嬉しく思います。
 
そこで、道のりは平たんではなく短くもないとおもいますが、私たちは京都でもっと身近に京都醸造のビールを手に入れることができるようにしたい、そして、この街の取引先や地元の人々に特別に感じてもらえるものを作りたいという考えから、年内に京都限定の単発ビールをいくつか造ることにしました。そう、この街にしか流通していない、この街のビールをつくるというイメージです。そして実は、一番最初の京都限定ビールのリリースはすでに数週間後に予定されています。

 

この限定ビールは、まず親しみやすさを第一に、心地よい味わいと私たちのハウス酵母であるベルギー酵母由来の複雑さの間でちょうどいいバランスに設計されていて、尚且つ屋外でも気軽に楽しめるものにしたいと考えました。このベルギー酵母というのは、ビールにハーブやスパイス、そしてフルーツのような香りを与えながら、素晴らしく爽快なドライな口当たりに仕上げてくれます。クラフトビールを初めて飲む人や幅広い人々に魅力的に感じてもらいたいので、極力ライトで楽しみやすい仕上がりにし、長い一日の終わりにお家やバーなどで、または天気のいい日は屋外で、鴨川のほとりで、あるいは京都一周トレイルのハイキングの終着点で、楽しく美味しく簡単に飲めるようなビールにしたいと考えています。

 

 

京都以外の全国のお客様はこれまでと同様に私たちにとって大切な存在であり、他のシリーズを通して発売しているビールに制限を設けたり、減産したりすることなく、欲しい時に期待通りのビールが買えるように努めていくつもりです。が、私たちの地元京都に向けてのこの特別商品のリリースが結果的に地域を盛り上げることを目的にしていることへの理解をいただけると幸いです。クラフトビールに対する人々の意識を高め、いつしか京都が国内のクラフトビールの中心地になることを夢見て。

 

その第一弾リリースが近々に京都の飲食店、小売店、卸を対象に発売される予定で、この京都限定商品が回を重ねるにつれ、時間をかけながらゆっくりと広がっていくといいなと思っています。あなたがもし京都に住んでいて、ちかくのお店でビールを買おうかと訪れたとき、これらのビールが並んでいる光景がいつか実現するかもしれません。京都外からこの街を訪れた際は、この地域で造られた新鮮で珍しいビールを試してみてはいかがでしょうか。