探求心シリーズ ブリュワーインタビュー -白虎(びゃっこ)-

2024年の樽生限定シリーズ「探求心」。第一弾の「東西共鳴」は、2月に行われた横浜でのイベントでも好評で、当シリーズにとって幸先の良いスタートとなりました。
そしてこの度、第二弾となるヴァイツェン「白虎(びゃっこ)」が完成しました。今回の担当ブルワーは、登山匡章(のぼりやま まさあき)さん。KBCではYa-manと呼ばれています。過去に営業として働いていたこともある彼は、物腰柔らかで、KBCのチーム間の架け橋としても大切な存在です。今回も、彼へのインタビューを通して「白虎(びゃっこ)」完成までの道のりを紹介します。
  
  
ー自己紹介をお願いします。
Ya-man:初めまして、登山です。新潟県三条市出身です。
某体育大学出身でして、卒業まで東京と鹿児島で陸上競技をしていました。就職でまた東京に行って、地元である新潟県に戻りました。新潟にある日本酒蔵で、4年ほど前にクラフトビール事業立ち上げの現場担当になり、この業界に関わるようになりました。そのころは、ビールの醸造はもちろん、現場の仕組み作りやレシピ作りまで醸造に関わる様々な作業を行っていました。
当時造っていた数々のビールの内、主要な3銘柄が日本地ビール協会のジャパングレートビアアワーズにて、受賞(IPAは金賞獲れました!)できたことをきっかけに、より本格的な環境でビール造りをしたいという気持ちを強めていました。そんな中、縁あってKBCの一員となり、京都でビール造りに携わっています。
各地を転々とした後に、こうしていま京都でブルワーをしているのは人生っていろいろだなあと思ったりします。
  
ー京都に来てそろそろ2年ですが、京都での生活はどうですか?
Ya-man:京都に来てからは特に自転車(シングルギア!)にハマっています。出勤はもちろん休日もサイクリングを満喫しています。いまは、ユルいスタイルの2台目を組もうと、去年からダラダラとパーツを集めています。
  
ースタイルと言えば、今回の「白虎(びゃっこ)」は京都醸造では初めて造る”ヴァイツェン”ですよね。このスタイルを造ろうと思ったきっかけはありますか?
Ya-man:前の職場で、ペールエール、ヴァイツェン、IPAを造っていたのですが、ヴァイツェンが特に苦戦していました。京都に来て、自分の知識や経験、環境や設備が変わったうえで、今できる美味しいヴァイツェンに挑戦しました。昔の自分は、クラフトビールの知識や情報が少ない狭い世界でビールを造っていた井の中の蛙でした。大海に出ないとダメだ!と思って京都に来たので、いまは等身大の蛙として醸造と向き合えています。
また、今回のシリーズのテーマが「探求心」ということで「今まで京都醸造が触れてこなかった領域に踏み込む」という探求の仕方を体現してみました。
  
ーYa-manの「探求心」はスタイル選びから始まっているんですね!醸造においての「探求心」ポイントはどうですか?
Ya-man:ヴァイツェンは苦味が非常に優しく、バナナやクローブといった特徴的な香り、小麦麦芽を多く使用していることによる柔らかい口当たりといった特徴のあるスタイルです。今回はより良い香りを引き出すために、糖化工程では低い温度から2段階で昇温させたり(こちらもKBC初!)、発酵温度を低めに設定したりしました。
また、香味に奥行きを感じられるようココナッツやライチのキャラクターを持つホップをメインにブレンドしました。酵母が生み出す香味とホップの香味が上手く掛け合わさり、少しだけホッピーなヴァイツェンを思い描いています。
  
ー自身にとっても、KBCにとっても初体験が多い今回のビール「白虎」ですが、仕上がりはどうでしたか?
Ya-man:ヴァイツェンらしい香味の層を増やすために挑戦したドライホップは、かなり狙い通りにいきました!クラシックなヴァイツェンをベースに、ココナッツやライチ、そしてウッディな優しいホップのキャラクターが楽しめる仕上がりです!
今回、探求のポイントとしていた糖化工程・発酵管理を通して「酵母のコントロール」という点で、よい学びを得ることができ、ヴァイツェンに苦戦していたかつての自分の殻を破ったような経験になりました。ビールの苦味が得意ではない方、クラフトビールに挑戦してみたい方、そんな方にビールの懐の深さを感じる一つのきっかけになれば嬉しいです。
  
ー優しい飲み口のヴァイツェンに「白虎(びゃっこ)」という強そうな名前になりましたね!
Ya-man:そうなんです。強い動物の代表の一つとも言える虎をKBC初めてのヴァイツェンとの対峙を想起させました。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」というように、挑戦することが大きな成果を得るという諺にも重なる部分があります。それだけに沢山の学びがありました。
また、苦味が少なく見た目も濁って優しい印象のビールと反する名前がアンバランスで面白いとも思っています。虎の中でも小麦を思わせる色合いから、白虎と名付けました。
  
ー最後に、これから「白虎」を全国に送りだすいまの気持ちを教えてください!
Ya-man残念ながらクラフトビールはまだまだ、大手のビールほど手に取りやすいものにはなっていません。だから、これから「初めてのクラフトビール」の瞬間が訪れるであろうたくさんの人に優しくアプローチ出来る。ヴァイツェンというスタイルには、そのポテンシャルがあると信じています。ビールの苦味が得意ではない方やクラフトビールに挑戦してみたい方、そんな方たちにとって、クラフトビールの懐の深さを感じるきっかけの一つになれば嬉しいです。
  
  
インタビューを終えて:
「探求心」シリーズ第二弾は、京都醸造にとって初めての”ヴァイツェン”。普段ベルギーやアメリカスタイルのクラフトビールを主に造っている私たちの設備で、ドイツスタイルのビールを造ろうとすると、なかなか一筋縄ではいかないようでした。しかし、その点を面白みととらえ、自身やチームが持つ経験と知識を全て活かして完成したのが今回のヴァイツェン「白虎」。
  
Ya-manは、今回の”ヴァイツェン”について「苦味が非常に優しく、飲めば好きと思ってもらえる方も多いのでは?と思っているビアスタイル」と話していました。彼と同じ職場で働く自分としては、そのビールの特徴が彼の人間性とよく似ているところがあると思いました。力を貸して欲しいと伝えれば、いくら忙しくてもさらっと応えてくれる”優しさ”を持ち、チーム間の垣根を微塵も感じさせないオープンで”親しみやすい”Ya-manの人柄。そして、お酒が入ればワイワイと楽しくなるところなどは、まるで南ドイツだけでなく世界中で昔から愛され、その飲みやすさでホイホイと杯を重ねた末に、人を陽気に踊らせてしまうヴァイツェンのよう!気づけばYa-manからもヴァイツェンからも目を離せない!
  
Ya-manが造ったヴァイツェン「白虎」、ネーミングにやや迫力を感じさせるが、緊張することなくリラックスして気軽に楽しんでもらえる一杯であることは、京都醸造のスタッフ全員が保証するところである。
   
さて、次回はどのようなブリュワーが、どのようなスタイルで思いを形にしていくでしょうか。我々の探求は続きます。