新シリーズ2024「六果撰(ろっかせん)-ROKKASEN-」

クラフトビールの中で根強い人気を誇り、今日ではおそらく最も幅広く、最も絶えず進化しているスタイル、IPA。
   
元来、IPAは英国が海の覇者として精力的に海洋運搬を行っている時代に遠方へ持ち出すビールの長期保管を狙い防腐作用をもつホップをたくさん投入したビールを造ったことに端を発するとされているが、時代が変わって現代のアメリカで起こったクラフトビール革命を機に、まったく新しい形のIPAとして生まれ変わった。それは、防腐作用としてではなく、目が覚めるような新鮮な香りや味わいを持つホップの個性を最大限に活かしたIPAだ。
   
私たちが2023年に取り組んだ「六人の変革者」シリーズでは、さまざまな時代を経て、英国で生まれアメリカで花開いたIPAとその背後で時代が求める美味しいIPAを取ろうと尽力した名もなき醸造家に想いを馳せたストーリー仕立てで取り上げた。柑橘香や苦みを特長とするものから、ずっしりしたもの、底抜けにジューシーなもの、ぱきっとドライな口当たりのものまで、流行りや技術革新により多種多様なIPAが生み出された。このシリーズは、同じホップでも香り成分の革新的な摘出方法によって、まったく異なるような鮮烈な印象をビールに与える「解放者」で幕を閉じた。
   
そして、今年はこの一連のIPAシリーズの新しい対象として「フルーツ」を選んだ。
IPAを語る時、そのホップの味わいはたいてい”ジューシー”、もしくは”フルーティー”で表現されるが、実際には、土っぽい(earthy)、スパイシー、樹脂っぽい(resinous)、ハーブっぽい香りなど自然に数えきれないほどの色彩があるように大きな広がりがある。それこそ自然界には有史以前から延々とホップは存在したわけだが、この数十年内の品種改良、技術革新の賜物で、何百何千と爆発的に多くの種が生み出されているのだ。
    
今から約10年ほど前、ホップの個性を助長するような効果を狙い、製造工程で本物の果物を使ったIPAが世に現れ始めた。中でもBallast Pointが造るGrapefruit Sculpinの鮮烈な登場をきっかけに、アメリカ国内で同じようなフルーツIPAに取り組む醸造所が続いた。
   
それ以来、濁りを特長とするヘイジーIPAはジューシーさを増し、ブリュットIPAはよりドライさを極め、最近ではチオール(特殊な酵母の働きによって生み出される酵素で放出される化合物)がホップのフルーティーな芳香をさらに解き放つなど、あらゆる方向にIPA進化が止むことはない。そして、私たちは今こそフルーツ+IPAの領域に新たに進み出て、楽しみながら新境地を切り開くタイミングかもしれないと考え、「六果撰(ろっかせん)」というフルーツIPAシリーズを作りました。
   
このシリーズでは、ビールの製造過程で柑橘や熱帯果物などのジュースやピューレを加え、その果物の個性に合わせたIPAのスタイル、そしてその果物に近いニュアンスを持ったホップをセレクトし、果物とホップの双方のキャラクターを最大限に引き出すことを狙います。それは、ただ「追加」することではなく、私たちが好きな果物の要素を最も効果的、魅力的に伝える方法をみつけ、それをIPAの形で表現することが目的です。
   
今年一年を通して、六果撰シリーズから6つのフルーツIPAをリリース予定で、その第一作目が、来週にもお披露目されます。来週からいくつかの投稿を通じて、詳しくお伝えしていきますので、ご期待ください!